水谷孝次のMerryなポスター芸術 / 松本瑠樹

20世紀デザインの歴史は“スピード”と“コミニュケーション”を追い求め、広告の特性や限界はテクノロジーを飛躍的に進歩させ、20世紀の視覚芸術運動を側面で支え消費メディアに転換させた。

また、グラフィック・デザインの進展は、近代の絵画、詩、建築と密接な関係にあり、キュビズムの絵画と未来派の詩との融合から20世紀のグラフィック・デザインが生まれたと言われている。

その中にあって、ポスタ−は常に芸術と応用芸術、そして文化と商業の接合点として存在してきた、「近代芸術の歴史そのもの」であったと言っても過言ではない。

激動の20世紀を動かした、ポスタ−芸術はプロパガンダ[宣伝]とアジテーション[煽動]に始まった。

ポスタ−は大衆に広く宣伝して知らしめ、歓喜させ煽動するコミニュケーション・ツールとして、マスプロ・マスセールの量産・量販システムとは不可欠の関係にあった。にもかかわらず、従来の近代デザイン史では、建築や家具や乗物などの立体的な構築物や製造物または都市空間などが中心におかれ、グラフィック・デザインあるいは印刷デザインはその重要性に見合った評価や扱いを受けて来なかった事実がある。
近代デザインを大量生産、マスコミの発達、都市化の進展などを大衆社会と結び付けて考えるならば、グラフィック・デザインは間違いなく、その最も重要な部分を占めるはずである。

また近年、グラフィック・デザインはその伝統的な境界をこえて拡張し、今や動的あるいは環境的なグラフィック・デザインにまでその領域を広めている。

そんな2000年春。
コンセプチュアル・アート「Merry」との遭遇はピュアーで新鮮な驚きだった。しかし、その後の関わりを考えると“ただの偶然”ではなく出会うべき出逢いは“万分の一の必然”だったのかもしれない…。
ラフォーレミュージアム原宿とラフォーレ原宿館内を使っての「原宿/Merry」は観るものを圧倒し、ドキドキ・ワクワクは無限大に増幅され、エプソンのマックスアートを使っての 1、ライブでポスタ−を制作するさまと 2、テクノロジーが生み出すスピード感で 3、表現された大型のB全ポスタ−の2,000点を越える原宿少女の笑顔たちが“水谷孝次のアートプロジェクト”「Merry=楽しさの世界」展へと延べ3万人の来場客を導いた。

あれから一年、時空を越えて“原宿で起こした事件「Merry」”はグローバルな若者文化の“コミニュケーション・ツール”として世界を駆けめぐりはじめた。

2001年春、ロンドンで最もファショナブルなセルフリッジ百貨店の全館が「原宿Merry」で、原宿ラフォーレが「ロンドンMerry」で埋め尽くされる大イベントが同時開催される。

20世紀は戦争と殺戮の世紀であると同時に、女性たちの社会進出の世紀でもあった。
世紀末的悲壮感が支配する昨今、「Merry」の希望に満ち溢れた笑顔たちが21世紀の「まだ見ぬ未来たち」への夢と希望をうたい挙げた。

次世代のデザイン表現に不可欠な要素にアートプロジェクト「Merry」が示唆した「リアル感とライブ感」キーワードは、『毎日がしあわせ一番』とコメントした少女のこころの叫びと、その笑顔で有り、21世紀アートが求める“芸術の日常性”が其処にあると言っても過言ではない。

プロ・アマの線引きが薄れ、混沌とした電子言語の宇宙空間に一石を投じ、コンセプチュアル・アート「Merry」の旗を高らかに掲げた水谷孝次氏の心意気に称賛の拍手を送りたい。「輝いて生きている人間が創造する、すべてが芸術なのだから……。」


[まつもと・るき / ポスター蒐集・研究家]