キリマンジャロ登頂記3
2011.03.01 1:56
・・・
うおおーーー!!
遠くから聞こえるタンザニアの山男たちの雄たけびで目が覚めた。
なんだか外が騒がしかった。時計を見てみると22:45。
もうちょっと寝ることにした。
ん!?
いや、違う!
23:45だ!!!!やばい!!!
テントの外に出てみると同じようなリアクションをとっているメンバーの姿があった。
お前もか…完全に寝坊だ。
6:00までにはテッペンに着かなくてはいけない。
何が何でも着かなくてはいけない。
彼に約束したんだ。
新年を迎えて騒いでいる山男を横目に急いで
準備をして、軽食を食べ出発したのは予定より1時間遅れの0:30だった。
とにかく行くしかない。
まみごんの調子も回復して無事9人でスタートすることができた。
しかし、僕たちはスタートしたときからすでに疲れていた。
写真を撮る余裕はなかった。
会話もとくになかった。
それでも僕たちは一歩一歩着実にテッペンに向かっていった。
上を見上げてみるとそこには真夜中で真っ暗の中
登山者のヘッドランプの灯りで作られた永遠と続く一本の道が現れていた。
とても神秘的で静寂な空間でそれはまるで
人間の魂が天国までいくための階段のようにも見えた。
しかし、その永遠と続く道を見るたびに絶望感のようなものが襲ってきた。
テッペンまでの道のりは険しく
そして遠かった。
2時間ほど歩いたところで僕はある不安で頭がいっぱいになっていた。
このペースで歩いて本当に初日の出に間に合うのか−
登山ど素人の僕のカンでは完全に間に合わないと思った。
僕はガイドをしてくれていたオスマンに思い切って聞いてみた。
僕「このままのペースでいって、本当に初日の出は見れるのか
僕たちの体調を考慮して、ゆっくり登っているのではないのか。
オスマンの専門的な意見を教えてくれ。正直に答えてくれ。
今僕たちは何メートルのところまで来ているんだ。」
少しためらったあとオスマンはこう答えた。
オスマン「4800mくらいだ。」
僕は愕然とした。
あんなに必死にずっと登ってきたのに、まだ200mしか上がってないのか。
僕「そうか。ってことは無理なんだな。オスマン。正直に答えてくれ…」
オスマン「無理だ。日の出までには間に合わない。
テッペンに着くのは8~9時くらいになるだろう。」
疲れがどっと出てきた。
そして、沈黙が10分ほど続いた。
その間、暗闇の中で僕は一人ずっと考えていた。
人々が地面を踏む音だけが聞こえた。
そして、
僕はオスマンにこう提案した。
僕「僕はどうしても初日の出をテッペンから見なければいけない理由がある。だから、
チームを二つに分けてくれ。」
僕に迷いはなかった。僕はやれる自信があった。
そして、オスマンは僕の目を見た後、
先頭で先導しているチーフガイドのチャールズに相談しにいった。
しばらくしてから、僕も先頭にいって言いたいことを全てチャールズに話した。
そして
彼の足が止まった。
チャールズ「ヘイ。ガイズ。聞いてくれ。今のオレたちのペースはすごく遅い。
これでは全然間に合わない。だから、これからチームを二つに分けたいと思う。
初日の出を見たい人はこの若くてタフな男に付いていってくれ。
ガイドはオスマンがやる。残りはオレと一緒に登る。いいか。」
チームを二つに分けるということは、先を行くグループはペースが上がり
さらにキツイ登山となる。また、後を行くグループは
初日の出を見るという夢を諦めなくてはいけない。
そう思うと胸が苦しくなった。
「オレやっぱ初日の出見てえよ。」
そう言って前に出てきてくれたのはじゅんさんだった。
続いて、マリリン、ムサシが前に出てきてくれた。
マリリンは女性にも関わらず、男に負けない強い心を持っている。
彼女が前に出てきてくれたのは本当に嬉しかった。
そして、後方に残ったのは
ダイゴさん、貴ちゃん、コアラちゃん、まみごん、バッシーの5人。
僕「忘れないでほしい。僕たちは一つ。みんなの分も必ず初日の出を見てくるよ。」
チャールズ「そうだ。オレたちは家族だ。」
オスマン「オレが必ず日の出に間に合わせるから。約束する。」
オスマンが僕たち4人にそう言うとすぐさま登り始めた。
そうだ。僕たちにはゆっくりしている暇はない。先を急ごう。
みんな、また笑顔で再会しよう。
それからというのは、さっきほどとは打って変わってペースがあがった。
休憩は僕が覚えている限り2分を2回だけ。
いつもはおしゃべりなムサシもこの時だけは無口だった。
ただ一歩
右足
左足
と登っていった。
他の登山グループと出逢う度に脇の砂利道を通らなければならない。
普段だったら、どうってことないちょっとした段差も
歯を食いしばりながら登っていった。
一歩
一歩
下を見ながら、前の人に遅れないように登っていった。
何度も座りたいと思った。
10秒でもいいから止まりたいって思った。
それでも
一歩一歩を全力で前に出していった。
お願いたっちゃん…力をくれ。お願いお願いお願い…
ふと、空を見た。
その瞬間。
僕「あ!みんな見てあそこ!!流れ星!!!!!!」
自分が今まで見た中で一番長い流れ星だった。
自分の見ている空の左上から右下までず〜っと星が流れた。
僕がそういった後でも他のメンバーが確認できるくらいの長さなんだから
どんだけのものだったか大体想像できるだろう。
また、身体のどこからか力が湧いてきた。
ありがとう。
その後も
何十人っていう登山者を抜いていった。いや、100人以上抜いていた。
途中何人もガイドに担がれ、下山していく人を見た。
座ったまま全く動けなくなっている人もいた。
吐いている人もいた。
皆を追い抜いていく間の細かいことは何一つ覚えていない。
ただ一つだけ
一つだけ覚えている。
マラリアで登ることのできなかったタイシさんのため
高山病でリタイアしなければならなかったヒロシマンとジョーちゃんのため
今も僕たちの背中を追って登ってきている後方のメンバーのため
そして、たっちゃんのため
必ず間に合わせて見せる
ず〜と
ず〜と
そのことだけ考えていた。
今はそれしか覚えていない。
しばらくすると、ステラポイントに着いた。
すると、オスマンが急に円陣をくみ僕たちにこう言った。
「みんな、ここまでよくやった。あそこがキリマンジャロのテッペン
ウフルピークだ。みんなあとちょっとだ頑張ろう。」
みんなすでに泣いていた。
時間がないのですぐまたオスマンは歩き始めた。
まともに泣く時間すら僕たちには無かった。
しかし、そのとき
マリリンがしゃがんだまま動けなくなっていた。
マリリン「私もうダメ…先行ってて….もし、間に合わなかったら私の分も…」
ムサシ「みんなで見るから!行こう!頑張ろう!」
みんな一杯一杯だった。
そんな中、少しずつ遠くの空が明るくなってきたのがわかった。
ついに来た!急がなければ!
僕はそのときポールを傘に持ち替えていた。
なぜそうしたか、よく覚えていないがただ
力がもらえるようなそんな気がしたんだと思う。
残りの30〜40分。僕は傘を差しながら登っていった。
あと少し
あと少しがすごく長かった。
明るくなるつれて焦りが増してくるけど
足が全然前に出ない。
お願い!!
お願い!!
お願い!!
お願い!!お願い!!
間に合ってくれ!!!!!
たっちゃん。力をくれ!!
体力なんてとっくに切れていた。
あったのは熱望。それだけだった。
あと少し
あと少し
そして
ついに
ついに
テッペンにたどり着いた。
すぐさま後ろを振り返った。
一瞬時が止まった。
しばらくすると、太陽の光がキリマンジャロを照らし始めた。
ドンピシャとはこのことを言うのだと思う。
僕たちは間に合ったのだ。
初日の出に間に合ったのだ。
ありがとう
彼がここに来させた。
本当にありがとう。
それから、一つみんなに言っていなかったことがある。
それは
これだ。
旅の最初に寄ったナイロビのゲストハウスで見た、彼が亡くなる一週間前に残した情報ノートの一ページ。
僕はそれをずっと持って旅をしていた。
ここにどうしても持ってきたくて
これがあったら登れる気がして
それで
ずっと右ポケットに入れながら登山していました。
ずっと、ずっと彼と一緒に登っていました。
つながりとは本当に不思議なもの。
僕はこれからもつながりを大事にして生きていきたい。
結局、あの後
ダイゴさん、とバッシーが遅れて登頂することに成功した。
バッシーはアタックのときに二度吐いている。
それでも登り切った彼女は本当にすごい。
まみごん、コアラちゃん、貴ちゃんは途中でリタイアしてしまったらしい。
それでも、一番症状が酷かったまみごんは下山中には
早くも来年も挑戦するから!って意気込んでいた。
僕は今回このメンバーで一緒に登ることができて本当に良かった。
元々彼らはボランティアをしている方達。登山中にゴミが落ちていると拾っていくような方々だ。
人に対する思いやりや人間の温かさ自然の大切さというものをよく知っている。
単なる旅人をメンバーに入れてくれた彼らに
心から感謝をしたい。ありがとう。
下山するとヒロシマンとジョーちゃんが待っていてくれた。
久しぶりの再会。とってもとってもMERRYな気持ちになった。
彼らは僕たちが登っている間もずっとキリマンジャロが見える場所にいてくれたらしい。
今の僕にはそれがどれだけMERRY なことかわかる。
あなたのこと想っていてくれる人が世界のどこかに必ずいる。
笑顔で再会できることを心待ちにしている人が必ずいる。
そのことを感じることができれば
どんな困難にも打ち勝つことができる。
大事なのは技術や経験じゃない。
何かに対する想い。誰かに対する想い。
それだけだった。
最後の一人が下山した。
これで長かった僕たちの登山が終わった。
一緒に登ってくれたみんな
日本から応援してくれたみんな
旅の途中で出逢ったみんな
たっちゃんのご両親
たっちゃんの彼女のちえさん
今心の底から伝えたい。
本当に
アサンテサーナだよ。